三五館シンシャ

アスペクト比

倒産する出版社に就職する方法・第79回

 

企画は定まった。Facebookに投稿されているEARTHおじさんを主人公とした10コマ漫画を一冊の本にまとめる。これで行くのだ。俺もそう思っててん。楽しんで読んでもらいながら、「自分たちの暮らし方」のこと、「お金」のこと、「環境」のことを考えなおすような作品。これだ!

この案を長澤氏に報告する。

 

「えっ、マジ? マジなの? マジで?」

言葉の意味はよくわからないが、「マジで」→「マジ(=真面目に)で(=できることから取り組んでまいります)」ということなのだろう。

前作『買いものは投票なんだ』は絵本を意識したこともあり、本のサイズをB5判の上製(ハードカバー)にしていた。しかし、今回、10コマ漫画ということになれば、同じような体裁ではないほうがよかろう。サイズはひと回り小さくしてA5判。漫画のページを繰りやすくするため、もう上製である必要もない。並製(ソフトカバー)でページは160。これだ!

 

マンガを描いてもらうのであれば、Facebookに投稿している分をそのまま本に流用できるようにすればいい。今から1コマのサイズを割り出して、Facebookに投稿する時点で本にそのまま使える原画を描いてもらったほうが手間が省ける。我ながらいいアイディアだ。

B5サイズの本の見開きページに10コマをどうやって割り付けるか、さっそくデザイナーと相談したうえで、1コマのサイズを決定する。1コマのサイズはタテ64ミリ×ヨコ80ミリ。これがタテに3コマ、見開きでヨコに4列。10コマから2つコマが増え、トータル12コマで1エピソードを構成する。これがベストだ。

サイズは決まった。どうせやるなら一刻も早いほうがいい。日々、Facebookに投稿している長澤氏にLINEで連絡する。

 

『Facebookに投稿している漫画、本でもそのまま使えるように1コマのサイズ、タテ64ミリ×ヨコ80ミリでお描きください』

『うん。わかった。描く!』

 

停滞していた企画がようやく動き出す。私は安堵のため息をついた。

5日後。長澤氏からLINEが届く。

『ワク、ちっちゃい。。。』

 

『うん。わかった。描く!』から『ワク、ちっちゃい』に気づくまで、なぜ5日もの時間を要したのか。小旅行でも行ったのか。私にはわからないが、とにかく『ワク、ちっちゃい』のである。でも心配など要らない。電話で説明してしんぜよう。

 

「安心してください。原画をデータ上で縮小するのは簡単なので大きめに描いてもらって構いません。タテヨコともに同じ比率であれば、いくら拡大していただいても大丈夫です。タテヨコ比だけ守って、自分のいちばん書きやすいサイズを決めちゃってください」

「何センチで描けばいい?」

「何センチでもいいです。タテヨコ比が4:5なので、この比率でいちばん描きやすいサイズで決めちゃってください」

「だから、何センチ?」

「だから、何センチでもいいです。4:5になればいいので、たとえばタテ80ミリならヨコ100ミリだし、タテ100ミリならヨコ125ミリ。タテヨコ比が4:5になるところで、いちばん描きやすいサイズを決めてください」

「だからぁ、何センチで描けばいい?」

「だからぁ、描きやすいサイズって人それぞれ違うと思うんですよ。タテ4、ヨコ5の比率なら何センチでもいいので……」

「比率とか、私、そーゆーのカンケーないから」

 

 

万物は「数」である、ピタゴラスはそう言ったという。私たちの思考力や想像力を無限に働かせてくれる「数」。「数」という概念を手に入れ、人類は飛躍的に進化した。

でも、そーゆーのカンケーない人もいる。

 

 

ハンパねえ。

義務教育からのソーシャルディスタンスがハンパねえ。

(つづく)