運命という名の荒波

倒産する出版社に就職する方法・連載第25回

 

 

「ワタシ、原画持って東京行く。届けに行く!」

「は、はあ……」

 

8月19日夜、青春マンガのヒロインのような台詞に気おされて、なんとなく了承してしまったものの、まさかあのような事態を招くことになろうとは……。

 

 

9月新刊『買いものは投票なんだ』の原画納品が遅れまくっていることは先週来、この連載でみなさんにご報告申しあげているとおりです。

先週末時点で、20枚中の12枚。追い上げてきているとはいえ、まだ5分の3。

作者二人と私をのせた木造船は、運命という名の荒波に翻弄され、もはや漂流状態といっていいでしょう。行き着き先はもちろんまだ見えていません。で、ここ数日、足元がなんだか水浸しなのは……きっと湿度が高いからですよね。…ね、そうですよ…ね。

 

 

原稿があがってこないときにどうすべきか?

これも編集者の力量が問われるところで、書き手の性格を考慮に入れつつ、原稿執筆を促すための行動を選択せねばなりません。

作家をホテルや旅館にこもらせて執筆に専念させるいわゆる「カンヅメ」もそのひとつですし、激情まじりの言葉で急かす、手紙を書き続ける、なんにも言わずにひたすら待つ……といった手練手管を駆使することになります。

 

私の場合はこれです。

 

 

恐る恐る聞く。

 

 

昼夜を問わずに描き続けている長澤氏の作業の邪魔にならないようにLINEです。8月18日(土)のLINEです。

 

『週明けには全部、いただけますよね?』

『うん』

 

……。

 

「うん」って否定の意味ないよな……。

「運」でも「雲」でもない、同意の「うん」だよな。

いや待てよ、もしかして「週明け」を「週が明けて以降」という意味に都合よく解釈してる? 「このハシ渡るべからず、とあったので真ん中渡りました♪」みたいな。「9月1日も週明けは週明けでしょ(ニコッ)」みたいな。

ヤベエ。

念のため……。

 

『週明けの月曜日(8月20日)の朝にこちらの事務所到着ですべていただけるということでいいですよね?』

『行ける』

 

おぉ。

おおおぉぉぉ。

 

ついに、おぉです。

ようやく、おおおぉぉぉなのです。

 

連載を追いかけていただいている方には繰り返しになりますが、本作はB5判全40ページなので、B4の原画が20枚必要です。

ただ、冒頭の1ページ目は扉といって、タイトルや著者名、出版社名が入るページで、基本的にはカバーデザインと連動するため、カバーの構想もまだ何もできていない現時点では、着手のしようがありません。(足元の水で靴下ビシャビシャなんすけど……俺も水、かき出したほうがいいの?)

また、ラストの1ページは奥付といって、出版社情報やISBN(!)とか、著作権者を示すCマークとかが入るページなので、ここはイラスト不要です。

つまり、冒頭とラストは外すとして、実質、原画19枚ということになります。

 

残り7枚が、いよいよおぉすることになったのです。

この7枚を加えた全19枚あれば、いったんデザイナーにおおおぉぉぉしてもらうことも可能になってきます。

 

さっきまでの荒波がおさまり、雲の切れ間から差し込む日差しを感じます。

まさに、待てば海路の日和あり。

秋の気配を感じさせる晴天の日曜日をすごし、週明けからいよいよ本格化する編集作業を前に気力をみなぎらせた私に、19日夜、再びLINEメッセージが届きました。

 

 

凪のあとにやってくるもの。

時化です。

(つづく)


ISBNからのメッセージ

ある画家の悲劇

チャンス、到来