良い知らせと、悪い知らせ

倒産する出版社に就職する方法・第34回

 

私はひとり薄暗い洞窟を歩いている。

苔むした岩肌の勾配は奥に向かってゆるやかな傾斜をつけている。

ここはどこで、この先にはいったい何があるのだろうか?

足元に注意しながらしばらく歩き続けた私は、視線の先にほのかに光る陽だまりを見つける。

こんな洞窟に、どうして陽だまりが……。

ん? 何か、いる。

目をこらして恐る恐る近づくと、そこにはバランスボールの上で体を揺らしている一人の男性が。

「あ、あなたは……EARTHおじさん!?」

 

EARTHおじさんはこちらを見て微笑み、つぶやく。

「ご苦労さん。じつは君に良い知らせと、悪い知らせがあるんや」

 

えっ!?

 

 

 

 

ハッ、夢か……。

寝汗で湿った布団から身を起こした私は枕もとの時計を見やりました。昨日で『買いものは投票なんだ』のすべての作業が終わった安心感からか、少々寝すぎてしまったようです。それにしてもEARTHおじさんが夢の中に出てくるなんて、縁起がいいのか、悪いのか……。

 

印刷が終了した本文は製本所に納品されます。製本所で、本のサイズに断ち落とされ、糸でかがられ、表紙がつけられ、カバー・オビが巻かれ……だんだんとみなさんが手に取る書籍のかたちに仕上がっていくことになります。私はもう9月13日にできあがってくる見本を待つのみ。ここ数カ月の作業を思い返し、ようやく人心地つくのでした。

久しぶりにゆったりした朝を過ごす私には、昨晩から楽しみにしていることがあります。

Amazonの『買いものは投票なんだ』ページの確認です。昨日はずっと和書総合5位をキープしつづけたランキング、果たして今朝はどうなっているのでしょうか。さて――。

 

Amazon和書総合3位。

 

 

おおっ。

おおぉぉっ。

 

ひとりで三五館シンシャを立ち上げて早9カ月。ようやくここまで来たか。

本が売れ出す胎動を嗅ぎ取った私は、かつて幾度となく体感した昂ぶりをふたたび思い起こしていた。

 

 

……。

 

いや、すみません。ワタクシ見栄を張りました。

「本が売れ出す胎動」「幾度となく体感した昂ぶり」とか、ベストセラー編集者っぽいこと言って、すみません。さも経験豊富みたいなツラして、ごめんなさい。

告白します。Amazon総合3位なんて、三五館時代、むか~しに一、二回あったよな……そんな程度。

い、いや、でも初めてじゃないですよ。俺、もう経験してっから。いや、ウソじゃないって。経験あるって! だから初めてじゃねえっつってんの!!!

……とにかくワタクシ、緊張しておるのです。

 

 

さて、少し遅めの出社です。作業に追い立てられない出社など、何日ぶりのことでしょうか。ここ数カ月たまりにたまった領収書の処理などの事務作業を片づけることにしますか。

その前にとりあえず、Amazon和書総合3位の画面をスクリーンショットというやつで保存しときます。私が死んだときには、このスクリーンショットを遺影にすることにしましょう。

 

と、iphoneを操作しているところに、藤原ひろのぶ氏からのLINEです。

 

『やばいミスを発見しました(T‐T)』

 

続いて長澤美穂氏からもLINEが。

 

『やばい。緊急会議』

 

LINEの画面を眺めます。

 

 

……。

 

 

早くしろ。

早く次の情報をくれ。

 

……。

 

 

なに、この間は?

 

 

えっ、イタズラなの? からかってる?

あっ、そうだよね。俺が昨日、仕事にめどがついたの知ってるから、今ホッとしているみたいだからちょっと驚かせてやろうって、二人で。意地が悪いなあ。で、『ウソだよ~。ビックリした?』って言うんでしょ。ねえ、そうでしょ。そうだよね。そうだと言ってよ……。

 

 

 

『15ページ、誤字発見』

『やばいやつ』

 

……。

(つづく)