倒産する出版社に就職する方法・第41回
さらに数日後が経過。
家賃値下げ要求を突き付けた私に対して、大家と交渉すると言っていた不動産屋からあらためて電話がかかってきました。
「たいへん申し訳ありませんが、大家さんと弊社とは家賃保証という契約になっており、家賃自体を値下げすることは難しいのです。ですから、今回は更新料を半額ということでいかがでしょうか?」
「なるほど……」
どうですか、これ。
――家賃は下げないけれども更新料を半額にする。
私は即座に「家賃値下げに換算すると何割引きになるのか?」と考えました。
なぜなら私は『家賃を2割下げる方法』という本を編集し、それが可能かどうか身をもって実践しているわけです。支払う額がいくら安くなったかということよりも、家賃にして何割下がったかというのが重要なポイントなのです。
「なるほど、ね」
ケータイを耳にあてたまま、不動産屋の担当者にそうつぶやき、机からとっさに電卓を取り出します。
(ええっと、更新料が1カ月分14万3000円で、その半額だから7万1500円。2年契約だから、7万1500円÷24カ月=月額2979円……)
「なるほどなるほど……」
(月額2979円ということは、この額が1カ月分の家賃の何割引きかを導き出すためには………………………………………………………………)
は、歯が立たねえ……。
ケータイを耳にあてて不動産屋と話しながらでは、とてもじゃねえけど太刀打ちできねえ難問がきやがった。
「……ご提案の金額、よく検討して、折り返し差しあげます」
そう言って、いったん電話を切ります。
私も今でこそ世俗の人間ではありますが、中学3年の3学期末には中学の全数学課程を修了しきったほどの者です。いかに高度な数学的エニグマといえど、あのときに修了した知識をもって冷静に対処すれば解を導けるはずなのです。
こ、こういう場合はどっちかをどっちかで割ればいいんだよな。えっと、確か値下げ額を家賃で割ればいいんだから……、2979÷143000=0.02でよかったんだっけ?
0.02ということは……2%?
さすがの私も2割家賃が下がるとは思っていませんでしたが(そうなの?)、月額に換算するとたった2%とは! 「家賃が2%下がる方法」なんて企画、絶対通らないよ。
とはいえ、私も「2割値下げ原理主義者」ではありませんから、「2割下げなきゃゼッタイ調停!」とも思っていません。ちなみに、こうした不動産屋側の譲歩は家賃調停の場において先方を有利にさせるとも言われます。
ただ、いくらなんでも2%ではダメです。ここはもう一押しするべきでしょう。
ということで、すぐさま不動産屋に電話を入れ、「それでは更新料5万円で決着させませんか」と伝え、さりげなく最後にこう付け加えました。
「ダメなら調停ということで」
担当者は「わかりました。持ち帰って検討させていただきます」と言い残し、電話は切れました。前回は軽くスカされた決めゼリフですが、今回ばかりは担当者の首筋にしかと叩き込まれた手応えを感じます。コレよ、コレ、欲しかったのは。
そして、そのわずか15分後、こちらに電話をかけ直してきた不動産屋は告げました。
「更新料5万円で結構です」
ついにやりました。
「わかりました。それでは契約更新をさせていただきます」と私。
「ダメなら調停」の一撃により、不動産屋はマットに沈んだのです。
これで第一ラウンドが決着、凱歌は私にあがりました。
ええ、ここまではあくまで第一ラウンドです。
この2年後、私はふたたび不動産屋との死闘=予期せぬ第二ラウンドに突入していくことになるのです。
ということで、この第一、第二ラウンドの全貌はもちろん、家賃崩壊時代にトクする具体的方法をまとめた賃貸住宅居住者必読の書『家賃は今すぐ下げられる!』はAmazonで予約受付中です。ぜひご購読ください。(祈)