三五館シンシャ

チキンレース

倒産する出版社に就職する方法・第45回

 

藤原ひろのぶ氏が勝手に個展の開催を高らかに宣言したのが10月5日。

個展についてなんの手がかりも残さず、バングラデシュに高飛びしたのが10月17日。滞在は2週間。

この間の個展の進捗が気がかりではありますが、藤原氏も長澤氏も大人です。しかも面と向かって、「見通しは立っている」と言い切ったのです。私がどうこう言わなくても、自分らで言ったことの責任は負ってくれるはずです。私は私で、三五館シンシャの今後の新刊作りや販促活動にも力を注がねばなりません。

 

 

あっという間に数日が過ぎました。2人からはなんの連絡もありません。

が、ここで心配した私が進捗確認の連絡を入れることは2人を甘やかすことになりかねません。2人とも大人なのです。ぐっと耐えて、自発的な動き出しを待ちましょう。

 

さらに数日が過ぎました。依然として音沙汰がないままです。

私だって新刊作りや販促活動に忙しいわけですし、自分たちの尻は自分たちで拭いてもらわねばなりません。本人らもわかっているはずなので、そのうち動き出すでしょう。ここはあえて連絡せず、向こうからの連絡を待つのです。

 

 

さらに数日が過ぎました。なんの知らせも届きません。

そもそもこの個展、私が依頼したのではなく、本人らがやると言い出したのです。であれば向こうから進捗を報告してくるのが筋というもんでしょう。なぜ私から聞かなければならないのか。ここは意地でも連絡してはいけない。断固、報告を待つのみです。

 

 

さらに数日が過ぎました。連絡はありません。

ここで進捗確認をしては相手の思う壺です。どうせあいつが聞いてくるだろと舐めているのです。あいつが聞いてきたらやればいいくらいに思っているのです。舐めてもらっては困ります。私も忙しいのです。連絡は無用。いざとなり慌てふためけばいいでしょう。もし万一個展準備が間に合わなくなって、恥をかくのは著者2人なのですから!

 

 

 

――月めくりカレンダーのページが変わり、11月に突入しました。

 

 

 

 

 

だ、大丈夫?

ホント間に合う?

 

 

 

はい。私、負けました。それでいいです。これ以上、耐えられません。

意地を張った私がバカでした。話に夢中で笑いながら前見ずハンドル握っている猛者たちとチキンレースやって、勝てるわけがないのです。このまま行けば、猛者たちは笑ったまま壁に激突し爆死です。

猛者2人が爆死するのは勝手です。爆死直前まで楽しく話していたせいで2人ともじつに愉快そうな死に顔です。

一方、その爆風に巻き込まれて死んだ私の顔を見てください。なぜ2人を止めなかったのかという後悔に満ち、苦悶に歪んでいるではありませんか。さぞ苦しかったろうに。もっと生きたかったろうに。

 

 

聞きます。個展どうなったのか、こちらから進捗確認させていただきます。

長澤氏に電話します。

 

「あの、個展なんですけど、進み具合、大丈夫ですかね?」

「そうなの、やっぱり内容はいったん白紙にすることした」

「!!!!!!」

 

 

――いったん白紙――

 

 

いったん白紙も何も、俺そのプリントもらってないんだけど……。

俺が休みのとき配られた?

(つづく)