やっと会えたね――運命の面接篇

倒産する出版社に就職する方法・第10回

 

丸2年にわたり、外から覗き込めないかと背伸びしたり、どこか開いてる窓ないか探してみたり、ドアノブガチャガチャやったり、しまいにゃ扉に体当たりしながら大声出したり……それでもなかなか踏み入ることのできなかった出版業界のとば口まで来たのです。

もうあと一歩で出版業界に足を踏み入れることができそう…。

 

いや、今までもここまでは何度か来た。

「行けるかも」と淡い期待を抱いたこともあった。

しかし、最後のそり立つ壁に跳ね返された。(SASUKEより)

否が応にも緊張は高まります。

 

「失礼します!」

「いらっしゃいませ」

 

フロアには数名の社員。おとなしい返事…。

立ち上がって、腹の底から出てくる叫び「いらっしゃいませェェ!」ではありません。

「いらっしゃいませ」です。ふつうなのです。

 

安心となぜか少々の落胆が入り混じった気持ちのまま、社員と思しき女性に、最奥部に位置する会議室に通されます。

会議室には壁を覆うほどの大きな本棚に、これまで三五館が出してきた出版物が整然と並べられています。この書架そのものが三五館史なのです。

三五館とクレジットされた、ジャンルを問わない出版物を一つ一つ目で追っていく私。

 

すると、どこからともなく視線を感じます。

 

視られてる…?

 

視線を這わせ、本棚をたどっていった先にひときわ異彩を放つ一冊の本――。

 

 

お、お前は…!? サイババ!!

 

 

どんぐり眼のアフロヘア。

サイババが茫洋たる目つきでこちらを眺めているではありませんか。

(どんな目つきなのか知りたい方は、Amazonで『真実のサイババ』を検索)

 

しばし見詰め合う私とサイババ。

 

やっと会えたね……。

 

 

 

「どーもどーも」

突如、H社長が柔和な表情で入ってきました。

ハッと我に返り、頬を赤らめて、それぞれの席に戻る私とサイババ。

そうです、サイババと見詰め合い乳繰り合っている場合ではない。私にとって人生がかかった面接がこれから始まろうとしているのです。

 

「はじめまして」

なるべく明るくさわやかな好青年に見えるよう快活に笑顔で挨拶します。

が、このところずっと世をすねて生きてきた私、うまく笑えているのでしょうか。

 

「場所、すぐわかりましたか?」

H社長が問います。

私は憧れの出版業界と、ぬかるんだ此岸の境域を今まさに歩いているのです。

向こう側に入り込むか、再びこちら側に転がりかえるか。30分前に着いて、ワケのわからないことをつぶやきながらブランコを漕いでいたのは黙っておいたほうがよいでしょう。

「はい、すぐわかりました」

 

 

どんな本を読むのか、どんなジャンルの本を作ってみたいかなどを聞かれ、胸に忍ばせてきた企画書を差し出し、その場で目を通してもらいます。

 

面接のスタートから1時間ほどが過ぎ――。

いつもならそろそろ出版業界の厳しさの話が始まるはずです。人員を絞って最小限の人数でやっているので未経験は…という話が展開されるはずです。1時間も話を聞いてやったら、断り口上を切り出しても失礼に当たらない頃合いでしょう。

 

「わかりました。それじゃあ、またあらためて電話します」

 

また電話?

これは今まで面接に行ったいくつかの出版社では聞くことのできないセリフでした。

出版不況の話は? 未経験は難しいっていう話は?

 

天の岩戸が開きつつあり、何かが差し込んできているのでしょうか?

高まる期待感に対して、早計をいさめる自分もいます。

「早合点するな。お前はまだ『あらためて電話する』としか言われていないのだ…」

 

 

「はい。お電話、お待ちしています。本日はありがとうございました」

会議室を辞去する間際、すがるように、答えを求めるように、私は再び本棚のサイババを見やりました。

サイババは何も答えず、ただ茫洋と視線を宙に漂わせるのでした。

(つづく)


約束の日――sentimental Ver.<連載第9回>

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