ある画家の悲劇

倒産する出版社に就職する方法・連載第21回

 

中国の梁(502~557)に張僧繇(ちょうそうよう)という画家がいたそうなんです。

この張さん、絵画の技術が飛びぬけていて超うまい。

それに目をつけた梁の武帝は彼に、寺の壁に4匹の竜を描くよう命じたんです。

たぶん「スプレーアートみたいなので寺の壁に落書きされたらかなわん。超うまい竜のイラスト描いておけば、よもやそこに上書きしてスプレーアートで描きはしまい」とか考えたんでしょう。鳥居のマーク描いておけば立小便防げる、みたいなトンチの防御法ですよ。側近も「さすがですね」「その手がありましたか!」っつって。武帝のまわりなんて基本イエスマンばっかですから。

イエスマンに囲まれた武帝、絶大な権力持ってます。その武帝に頼まれたら、「今月末まで他社のイラストの仕事でいっぱいいっぱいで。点数が多いんで今はちょっとお受けできなくて」とか言えませんから。もう描くしかない。

そして、張さんは武帝の要望どおり、寺の壁に4匹の竜を描いたのです。

これが見事なこと、見事なこと。まるで本物のようなのです。

「スゲェ! 飛び出してるように見えるじゃん。トリックアート?」とかって町中の評判になったんです。

でも、この絵、なんか変なんです。

よーく見ると、4匹の竜には目の玉が描かれていません。

「怖ッ! ナニコレ、なんで目、描かんの?」と聞くじゃないですか、ふつう。

張さんいわく、「いやいや、もちろん目玉なんか簡単よ。でも、俺が目玉入れたら、この竜、壁から飛び出して飛んでっちゃうから、マジで」と。

お前それマジで言ってんのか、と。ふかすんじゃねえよ、と。思いますよね?

人間の心理なんてそんなに変わるもんでもないし、2018年の人が思うことは、550年あたりの人だって思うわけ。

で、炎上ですよ。

ネット上で大バッシング。

「うそつきウゼェ」

「存在自体がギャグ」

「くず人間消えろ」

「いんちきクソワロタ」……etc.

おいおい、君たちも一度は俺の竜の絵に心動かされた人間だろ。

張さんだってもう我慢なりません。

 

「それじゃあ、やってやるよ」ということになった。

大勢の聴衆が固唾を呑んで見守る中、張さんが2匹の竜に目を入れたところ――。

黒雲が空に広がり、稲妻が走る。雷鳴とどろく中、目が描かれた2匹の竜が壁を破って起き上がり、大勢集まった聴衆たちにUSJのウォーターサプライズパレードみたいにブシャーッと小便かけて天空に飛び去っていったのです。

で、竜がしていった小便のケモノ臭いこと。しかもそのニオイが2~3日全然とれないの。クリーニング屋持っていったら「なんすか、このニオイ?」って変な目で見られて。「うちではお引き受けできません」だって。ただ竜の真下にいた張さんが一番浴びたんですって。「作者として悔しかった」って言ってました。

残された壁を見てみると、そこには目玉のない2匹の竜が描かれているだけ。目の入った2匹の竜の姿はどこにもないのでした。

 

 

――「画竜点睛」の元となったお話をアカデミー出版の超訳風にお届けしましたが、ここから転じて大詰めの一手を欠くことを「画竜点睛を欠く」というわけです。

 

閑話休題。

ついにISBN書籍記号の切り番獲得目前までやってきた私。

あと1作がISBNファイルに書き込まれた際、3年超の待ち時間を経て600番は私の手に入るのです。

これぞ画竜点睛。(そうなの?)

 

2013年秋。多忙を極め、切り番のことなど忘れていた私のもとに、その瞬間はふいに訪れました。

入稿指定を済ませ、書体見本を棚に戻し、同じ棚に入っているISBNファイルを何気なく手に取り、ページをめくると――。

 

978-488320-599-8  『私もパーキンソン病患者です。』

 

い、いつのまに……。

 

ていうか、あっぶねー。

夜、家に帰ってきたら、玄関のカギ穴に鍵差し込んだままだったって気づいたときみたいな。この間、よく誰にも取られなかったな、と。

 

まあいい。いよいよ竜の目に点を打ち込むときが来たのです。

満を持して、私は自らの担当作品名を書き込みました。

 

978-4-88320-600-1  『3日食べなきゃ、7割治る!』

 

切り番、Get!

 

 

978-4-88320-500-4  『ビジネス書大バカ事典』

978-4-88320-600-1  『3日食べなきゃ、7割治る!』

978-4-88320-700-8  『話題のダイエットを格付けしたら…』

 

こうして私は2010年から倒産直前の2017年まで足掛け7年にわたり、三五館のISBN書籍記号におけるすべての切り番を手に入れたのです。

 

さて、話はずいぶん迂回してしまいましたが、第20回の冒頭に戻ります。

フォレスト出版から送られてきた9月新刊のISBNの件です。

つづく


ISBNからのメッセージ

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