調停、あるいは編集者としての責務

倒産する出版社に就職する方法・第39回

 

 

どうだ、調停だぞ。四の五の言うんなら出るとこ出てやるから覚悟しろ。ぐうの音も出んだろ、まいったか。

決め台詞をズバリ言い放ち、快感に打ち震える私。

 

「はい。そうですか。で、契約更新はされるんでしょうか?」

 

……エッ!

つ、通じてない……ッ!

水戸黄門が印籠出してるのに、軽く受け流す悪代官なんている? ここは驚き、たじろぎながら、言葉に詰まるのが礼儀ってもんでしょう。

俺以上に泰然としている不動産屋。なんかの達人?

 

「し、します。します。更新はするんですけど……だからその前に調停をするということなんですよ」

 

驚き、たじろぎ、言葉に詰まりながら、必死に抗する私。なんか思ってたのと違う。

 

「そうですか。では契約更新はされる、ということでいいですね」

「ええ、契約更新はするんですけど、その前に調停をするつもりなんですよ」

「そうですか。では契約自体は更新されるということですね」

 

 

……。

ついに水掛け論が新しい次元に突入しました。

 

「だから、調停をしようと思っているので、よろしくお願いします」

「そうですか。調停ですか。とりあえず更新はされるということで承知しました」

 

不動産屋は煮え切らない返答で電話を切りました。

手応えがまったくありませんが、いよいよ話は次のステップ、調停に進むことになりました。

 

調停といっても難しく考える必要はありません。簡易裁判所に書類(申立書など)を提出するだけなのです。調停の申立書は裁判所のホームページからダウンロード可です。

あの不動産屋に一撃くらわすためにも、早い対応がいいはずです。私はその日のうちに準備に取りかかることにしました。

 

夜、家でひとり、裁判所のホームページから書類をダウンロードします。

それを家のプリンタでプリントアウト。用紙を手許に『家賃を2割下げる方法』を参照しながら、シコシコ記入している私の背後から声がかかりました。

 

「何してんの?」

 

……マズイッ!

妻が目を覚ましてきたようです。

こんな夜中に、ひとりでシコシコしているところを見つかってしまったではありませんか。

必要以上に慌てる私。

 

いや、しかし冷静になってみれば、私がやろうとしていることは借家人としての当然の権利の行使であり、家賃値下げが実現すれば家族にとっても大いに恩恵のある話です。後ろ暗いことなど何もありはしません。

私は、これから私が行なおうとする正義の戦い=聖戦について冷静沈着に妻に説明し始めました。

話が一段落つき、黙って聞いていた妻がようやく口を開きます。

 

「ホントに調停なんてして、大丈夫なんでしょうね?」

 

 

おいおい、俺がこれからやろうとしているのは、自らが編集した『家賃を2割下げる方法』に書かれていることが実践できるかどうかの検証であり、それはすなわち書籍編集者としての責務、とりもなおさず仕事の一環なんだ。男の仕事にとやかく口を出すんじゃねえ!!!

 

もちろんズバッーンとこう言ってやりましたよ。

 

「う、うん。心配しないで……。本に書いてあるとおりにやることだから、たぶん大丈夫だと思うよ……(汗)」

(つづく)