「売れてる本」とは何か?

倒産する出版社に就職する方法・第49回

 

 

とりあえず、です。とりあえず、ストーンペーパーの話はいったん措いておいて、新鮮なパルプから作製された新聞の話をしなければなりません。

12月22日付けの朝日新聞です。

同紙の読書面「売れてる本」のコーナー、みなさんご存じでしょうか?

話題になっている本を取り上げて、各分野の本読みたちが独自の視点でその内容や背景を分析する欄です。通常の書評欄が、わりと硬派な本を取り上げるのに対し、軟派なものから朝日的ではない種類の本まで幅広く扱っていて、読書面の中でも読みやすい記事といえます。

その「売れてる本」に『買いものは投票なんだ』が取り上げられたのです。

「おお、おめでとう」とか、「すごいじゃない」「良かったね」とか言っているみなさん、早合点です。ちょっと待ってほしいのです。

この書評がなかなかビミョーなのです。

 

その内容に触れる前に、掲載までの経緯を説明しておきましょう。

コーナー名のとおり「売れてる本」でないといけないわけで、その本が実際にどのくらいの部数なのか、出版社に事前に問い合わせが入ります。

が、部数の確認をされたからといって、その本が必ず掲載されるわけではありません。以前の三五館時代、『ジョコビッチの生まれ変わる食事』という本が売れていて、朝日の担当者から部数の問い合わせがありました。刷り部数を伝えて、勝手に「よっしゃ、掲載決定!」とガッツポーズを決めていたのですが、いっこうに陽の目を見ることがないままに終わりました。(そのまま三五館も終わりました……)

なので今回も『買いものは投票なんだ』の部数についての問い合わせがあったとき、私は落ち着いたものでした。「まあ、これも取材段階だろう」と。「2万部くらいだからまだ取り上げられんだろうな」と。

 

ところが、先週の段階で朝日新聞のウェブ版に書名が出るなど、どうやら本当に掲載されるらしいとわかってきました。

私は浮き足立ちました。早々に「おお、おめでとう」「すごいじゃない」「良かったね」と、自分で自分を褒めてあげちゃいました。そして、掲載日を心待ちにしていたのです。

 

 

当日、朝起きて、ゴミ出しのついでにファミリーマートまで新聞買いにいく私。

すぐ読む用、事務所用、永久保存用の3部購入する私。

カ~モンベイビーアメリカ~の鼻歌まじりで家に帰る私。

リビングでページをめくる私。

 

 

フリーズする私。

 

 

評者である社会学者の水無田気流氏はこう書きます。

「かわいらしい絵柄ながら、なかなかに硬派な消費思想本である」

「ただ」と続けていわく、「本書が薦める『自然・手作り』の生活は、現在日本の多くの消費者にとって、時間・コストともに選択が難しい。(略)ただでさえ子どもの身体への影響を考え、『不自然な』商品への忌避感が強い消費者層といえるため、過度に不安を煽らないか心配だ」

 

 

心配されてしまいました……。

「事務所用」「永久保存用」の2部、返品できる?

 

 

風呂あがりに後ろからタックルくらった気分です。無防備な私は裸同然でリビングに吹っ飛ばされたのです。

こ、これは、悪質タックルではないのか……!

 

しかし、よく考えれば、すべての本は批評される権利と義務を伴うわけです。世に問われた作品はすべて批評から逃れることはできず、それは賛辞だけではなく、批判や、想像もしなかった悪罵さえも覚悟しなければなりません。あらゆる評価は謹んで甘受すべき宿命。そんなことは熟知していたはずなのに、朝日新聞「売れてる本」掲載という事実が私を浮き足立たせ、股間にタオル一枚の状態にしていたのです。ああ恥ずかしい。

 

 

「善悪の二項対立で描かない」「誰かを悪者に仕立てない」「否定しない」……作品制作の際に著者たちとさんざん議論したテーマでした。

著者の一人、ほうこと長澤美穂氏は、その回答をフェイスブック上に表明しました。(12月23日分の記事で読めます)

私は、この批評への回答を次なる作品上で示したいと考えます。

賛辞も批判も悪罵さえも飲み込んで消化して、一歩でも二歩でも前に進むのです。

 

 

ということで、さしあたって早急にストーンペーパーの話に戻らねばなりません。

(つづく)

 

*朝日新聞に掲載された書評全文をお読みになりたい方は、三五館シンシャのフェイスブック12月26日分に写真をアップしています。

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